線型代数・行列論で「行列式」「余因子展開」「クラメルの公式」の関係と,何に役立つのかのまとめ
線型代数のつまずきやすい用語
「行列式」「余因子展開」「クラメルの公式」
などをわかりやすく整理する。
(1)「線型代数の目的」は?
まず,線型代数は何のために存在するのか,という根本を考えよう。
線形代数の目的:
- 「逆行列」を求めること (=連立一次方程式系を解くこと)
- 「固有値問題」を解くこと (=応用が一番多い)
- 「対角化」により関係をシンプルに整理すること (=ジョルダン標準形を含む)
(2)「逆行列を求めること」に注目すると,「クラメル・余因子・行列式」が現れる
線型代数の目的の中でも,とくに「逆行列を求める」に注目した場合,アプローチは大きく分けて2つ。
逆行列を求める
- そのための手順(アルゴリズム):
- ガウスの消去法,掃き出し法
- 成分表示の方法:
- クラメルの公式
- この両者の仕組みを知っていれば数値計算法にも役立つ。
そして,クラメルの公式のために,余因子展開が必要。
そのためには行列式と余因子が必要。
そういうわけで,
- 線型代数の目的→逆行列→クラメル→余因子→行列式
という関係性がある。
(3)固有値問題や多変数の積分のためにも,行列式が必要になる
上記で見たとおり,「逆行列を求めたい」という動機をスタートとして,最後には「行列式」にたどりついた。
しかし,行列式はほかの問題とも関係がある。
「固有値問題を解きたい」という動機をスタートとした場合も,結局は行列式にたどりつく。
さらに,「多変数の積分を実行したい」という場合も,行列式が必要になる。
- 固有値問題を解くためにも行列式は役立つ。
- 行列式は,多変数の積分のためにも役立つ。
そして,線型代数の大きな目的の一つである「対角化」は,結局は固有値問題である。
- 対角化は固有値問題に帰着される。
(4)すべての用語の関係を整理してみよう
これらの関係を整理してアスキーアートにすると,下記のようになる。
ガウスの消去法 / 逆行列 … 最小二乗法による最適解 / \ 線型代数 クラメルの公式 ― 余因子展開 | \ ↓ | 固有値問題 ―――――――→ 行列式 | ↑ ↑ `――― 対角化 | ↓ | ジョルダン標準形 | \ | Ker, Im等の代数的概念 | | 解析学 ― 多変数の微積分 ――――― ヤコビアン,ヘッシアン
↑線型代数のポジションと概要をわかりやすく図示できている。
このAAの画像版は下記の通り。
参考
行列式とは何か。
- 平行六面体の体積
- 線形変換により体積が何倍に変わるかという倍率
- 行列の表す連立方程式に解が存在するかという指標
行列式の3つの定義と意味 | 高校数学の美しい物語
http://mathtrain.jp/determinant
- この性質を使って行列式を定義することもできます。すなわち,列ベクトルたちが張る平行六面体の(符号付き)体積が行列式であると定義します。
行列式 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8...
- 歴史的には行列が表す一次方程式の可解性を判定する指標として導入された。
- 幾何的には線型空間上の自己準同型に対して定義され、線型変換によって空間の体積要素が何倍に変わるかという概念を抽象化したものと見なすことができる。
余因子展開とは何か。
- 行列式を,一つ小さなサイズの行列式の和で表すこと
線形代数で、余因子展開について、分かりやすく説明して頂けないでしょ...
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/...
- N×N 行列の行列式を (N-1)×(N-1) 行列の行列式の和で表す方法です。
- 行列式は、行列のサイズが大きくなると急激に計算方法が難しくなるので、 このような方法を使います。
行列式
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp...
- $ n$ 次の正方行列では行についての余因子展開が $ n$通り可能です.また列についても$ n$通り可能です.
- 驚くことに, どの行または列についての余因子展開も同じ結果を与えます.
- このことより, 私たちは行列 $ A$ の行列式を余因子展開で定義することができるのです.
- 正方行列 $ A$ においてすべての行または列についての余因子展開は皆等しい.
院生のための算数入門(9) 線形代数マニアックス - ibaibabaibai_blogの日記
http://d.hatena.ne.jp/ibaibabaibai_bl...
- 「線形代数の教え方」というときの古典的な話題は「行列式をどう位置付けるか」である.
- 行列式は英語ではdeterminant
- 行列(matrix)
- じつは行列という概念より行列式のほうが歴史が古い.
- それで,古い教科書では行列式が行列より前のほうの章にあるものもあった.
- 行列式が嫌われる理由
- 数値計算上,行列式を定義どおり展開して何か計算することは,行列のサイズがNとしたときにNの階乗の数の項が出てくるのでまったくナンセンスだから
- 大きなサイズの行列を扱う数値計算の世界では,行列式を使ったクラメルの公式で連立1次方程式を解いたり,固有方程式を解いて固有値を求めることは金輪際ない.
- それでは行列式は無用かというと,そんなことはなくて,多重積分の変数変換,1変数の場合でいう「置換積分」に必要
- これは行列式が,対応する行列であらわされる1次変換の(符号つきの)拡大率をあらわすからである.
特殊な行列は,特殊な形式で行列式を書き下すことができる。
ヴァンデルモンド行列式の証明と応用例 | 高校数学の美しい物語
http://mathtrain.jp/vandermonde
- 因数定理を用いたヴァンデルモンド行列式の証明及び応用例
クラメルの公式とは何か。
- 逆行列の成分を厳密に書き下す公式。
- 計算量が大きいので,実用的にはガウスの消去法を使う。
クラメルの公式 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...
- 方程式の解を「正方係数行列とその各列ベクトルを一つずつ方程式の右辺のベクトルで置き換えて得られる行列の行列式」で表すもの。
- 線型方程式をクラメルの法則で解こうとすれば、ガウス消去法などよりもずっと大きな計算量が必要になる。
- 線型方程式の解をクラメルの法則によって求めれば、余因子行列 adj(A) を用いて逆行列の公式を得る。
- なお,クラメルの法則を幾何学的に解釈することもできる。
クラメルの公式の具体例と証明 | 高校数学の美しい物語
http://mathtrain.jp/cramer
- クラメルの公式は美しいし理論的には重要な公式だが,計算量が多すぎて実際に方程式を解くのには使えない。