数学の「調和積分論」についてのまとめ。多様体論・微分幾何学の一分野で,リーマン面の理論を高次元に拡張

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数学の微分幾何学の一分野である「調和積分論」についてのまとめ。

フィールズ賞を授与された日本人の数学者,小平先生が活躍している。

調和積分論の概要について

小平先生の数学と人間像
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~851051...

  • [3.調和積分論]19世紀の中ごろ Riemann は,代数曲線という具体的なものを離れて一般に抽象的な考察をし,現代でいうところの多様体の概念を導入
  • その後、位相幾何学などの発展を受けて Weyl がより厳密に取扱い「リーマン面の概念」という本を著した(1913年)。
    • そこにおいて解析多様体の基本概念が確立され、その上の自明でない複素解析関数(有理型関数)の存在が示された。
  • それを示すために, 複素関数を実部と虚部にわけ, それらを2次元の調和形式として認識し、与えられた1点でのみ特異性をもつ調和形式の存在を, ディリクレ原理を用いて証明する。
    • これから、複素解析関数の存在が示される。
  • さらに、各種の微分の概念が導入され、関数と微分の個数の間の関係式を与えるリーマンロッホ(Riemann-Roch)の定理が証明され、これらを用いて、閉リーマン面は代数曲線であることが証明される。
  • さらにリーマン面の一意化の問題が取り上げられている。
    • しかし、これは1次元でしか成立しない。
    • Weyl はこの本を書くことによって混沌とした世界に秩序をもたらし、次代の新理論の展開を待ったのである。  
  • 小平先生は驚くべきことに、戦時下ということもあり, 全く独力で Weyl のリーマン面の理論を高次元に展開する事に成功したのである。
    • 高次元リーマン多様体の上に特異点をもつ, 自明でない調和形式の存在問題を定式化し、直交射影の方法を用いて証明し、さらに調和形式の空間の次元の関係式としてリーマンロッホの定理を捉え、これを証明した。
  • 「一般化されたポテンシャル論」と副題をつけられたこの論文は, Weyl により impressive paper と呼ばれ讃えられた。アムステルダムで開かれた国際数学者会議(1954年)で小平先生はフィールズ賞を授与される。


小平邦彦 - 代表的な卒業生 — 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/resear...

  • 複素多様体とは,複素数を座標にもつ高次元の図形です。
    • 1次元複素多様体であるリーマン面の場合を除くと, 肉眼で見ることはできませんが,調和積分論といった解析学の手法や,層のコホモロジーといった代数的道具を使うことによって,目に見える図形に劣らず, 豊かな幾何学を展開することができる


数学学習マニュアル まとめページ
http://www.geocities.co.jp/Technopoli...

  • 多様体論の根幹を成すのはド・ラームの定理です。 『微分可能多様体のホモロジーが微分形式によって検出できる』ことを保証します。
  • ド・ラームの定理を精密化したものは調和形式といわれ、Hodgeの調和積分論が活躍します。


調和関数 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%B...

  • 20世紀には、ウィリアム・ホッジ、ジョルジュ・ド・ラーム、小平邦彦らが, 調和積分論の発展の中心的な役割を果たした。


調和積分(ちょうわせきぶん)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E8%AA%BF%E5...

  • 2変数の調和関数f(x,y)の示す行動は一見明らかだが,その実不可解な行動の一つに,全平面で調和な関数は定数しかないという性質がある。
    • これが実はどのような原因によっているのかを幾何学的な立場からまず明らかにしようとするものが調和積分論の起りであった


調和積分論
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/73/5/...

  • 調和積分論はラプラス,ポアンカレに遡り,18〜19世紀の数学の主要な問題であり,リーマンを経て現代数学に引き継がれた.関連する分野は多岐にわたり現代数学の縮図をなすとも言える.


『調和積分論』と無駄な出費と飾って満足 - 檜山正幸のキマイラ飼育記
http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama/200511...

  • 今年(2005年)になって出た2冊の本(これらも岩波)『微分形式の幾何学』と『複素幾何』を合わせると、だいたい『調和積分論』に書いてあったことをカバー


空飛ぶム✈ミンさんはTwitterを使っています: "数年前, 「調和積分論を何も見ないで証明出来できないようじゃ, 幾何学者とはいえないよ」って言ってた先輩がいたのですが, 今日 人づたいに聞いたことによると, 最近は「調和積分論を知らないのは人としてヤバイ」って言ってるそうです. 人類最期の日は近い."
https://twitter.com/_flyingmoomin/sta...

  • 「調和積分論を何も見ないで証明出来できないようじゃ, 幾何学者とはいえないよ」って言ってた先輩


微分幾何学の最近の動向
https://www.jstage.jst.go.jp/article/...

  • 調和積分は, Poincare, Cartan以来の懸案であった偏微分方程式α=∂β(βが未知微分式)の解の存在問題のde Rhamによる最終的解決(deRhamの定理)を基礎に,ポテンシャル論のコンパクトRiemann空間への応用であって,調和微分式とコホモロジー類との1-1対応を与えるものである。
  • これからBetti数と曲率との関係,それを出す技術を使って変換群と曲率の関係などが得られる。
  • 松島与三らの寄与がある


(第30回)近世日本人数学者列伝〜小平邦彦〜(後編) | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
http://toyokeizai.net/articles/-/2403

  • 数学者ワイルは、リーマン面の一意化といわれた問題を1次元の中で証明することで、新しい境地を切り開くことになりました。
  • 小平は第二次世界大戦中にもかかわらず、このワイルのリーマン面の理論を高次元に拡張することに成功しました。リーマン−ロッホの定理の高次元化の先駆けとなったのです。
  • 調和積分論とは、多様体を微分方程式を用いて研究する分野です。
    • その調和積分論の基本定理が, ホッジ−小平の定理です。
  • この業績により、小平は1954年アムステルダムで開かれた国際数学者会議でフィールズ賞を授与されたのでした。


Adachi Page
http://homepage3.nifty.com/kyousei/do...

  • コンパクトリーマン多様体というと、あっそうですか、となるのであるが、コンパクトリーマン面とくるとビビッときますな。
    • コンパクト曲面の小平理論では, 調和積分というのもありましたしね。
  • おまけに砂田さんの本は双曲リーマン多様体を扱っているらしいですが、こちらは小林双曲幾何で何かやれないか、コンパクトというのも概コンパクトで、概小林双曲的でいけるかも、この時退化集合の意味がとらえられないか、など妄想は広がっていきます


Donaldson
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~hashim...

  • Donaldson の理論が似ているのは,むしろ小平邦彦の仕事である.
  • 調和積分論,Riemann-Roch の高次元化,消滅定理,変形理論,複素曲面論(特にK3),いずれにも深い関わりがある.

受賞について

小平先生について,日本学士院が発表している文書:

理学博士 小平邦彦君「調和積分およびその応用に関する研究」に対する受賞審査要旨
http://www.japan-acad.go.jp/pdf/yoush...
 
調和積分の理論は
十九世紀の初めに数学会に登場したアーベル積分の理論を
多変数の場合へ拡張し一般化しようとして考えられたものであり,
それが関連する方面は代数学,解析学,幾何学等広汎なる分野に及び
十九世紀以後の数学の発展の主流をなすものである。
 
しかも之に関する小平邦彦君の業績は
この発展の根幹をなす一連の基本定理を殆ど一人で完成したものであり,
その結果の主要さに依り一九五四年アムステルダムに於ける国際数学者会議
(International Congress of Mathematicians)からフィールズ賞を授与された。
 
周知の如くアーベル函数(又はアーベル積分)の理論は
示性数(genus)が1の場合は楕円函数(又は楕円積分の理論)であり,
後者はルジャンドル(Legendre),アーベル(Abel),ヤコビ(Jacobi),
ワイヤストラス(Weierstrass)等によって
既に十九世紀の中頃までに完成されたのであるが,
示性数が1より大たる一般の場合の研究も同時に問題とされるべきは当然である。
 
この問題は最初アーベルとヤコビに依って取り上げられ,
リーマン(B. Riemann)に依って体統的に完成された。
 
即ちリーマンは一八五七年アーベル函数の被積分関数である所の代数函数を
彼の創意に成る所謂リーマン面(Riemann surfaces)上で考え,
アーベル積分の正則性,特異性を用いて之を三種に分類し,
且つ正則函数の実部と虚部とが夫々(それぞれ)調和函数であることを利用して,
存在定理を証明した。
 
併(しか)しこの推論には誤りのあることがワイヤストラスに依って指摘されたが,
後にヒルベルト(D.Hilbert)が之を補正し,
更にワイル(H. Weyl)は簡単化,明瞭化した。これ一九一三年の事である。
 
一方之等の理論の多変数の場合への拡張は長く停頓して
見るべき研究が少なかったのであるが,一九四〇年以後
ホッヂ(W.V.D.Hodge),ワイル,ド・ラム(G. de Rham)等の研究によって
急激な発展を見るに至った。
 
之等の諸氏はリーマンの方針に倣って
先ず調和函数を多変数の場合へ拡張する事から始めた。
 
即ちリーマン面の代わりにリーマン多様体を用い,
その上で定義せられたp階のテンソール場φに対し,
その双対テーソール場,その外微分d及び双対微分δを導入し,
ラプラス・ベルトラミ(Laplace-Beltrami)の演算子を
△=dδ+δdで定義し,
△φ=0 となるテンソール場を調和テンソール場と名付けた。
 
次いで積分路の代わりにはp次元の鎖(chains)を用い,
その上で調和テンソールを積分したものを
「調和積分(harmonic integrals)」と命名して,
之に関してリーマン流の存在定理を証明した。
 
併しホッヂやド・ラムの研究は
リーマンの云う第一種即ち正則な場合に限られていたのである。
 
これに対し小平君は先ず一九四四年当日本学士院に
三回にわたる論文
「U"ber die Harmonischen Tensorfelder
in Riemannschen Manigfaltkeiten, I, II, III」
を提出し,ワイルの正射影の方法を用いて之等の存在定理を証明し,
更に進んで調和テンソール場が特異性を持つ場合の研究への端緒を開いた。
 
次いで一九四八年には
「Relations between harmonic fields in Riemannian manifolds」
で後者の研究を更に進めて,リーマン多様体上での極(pole)を定義し,
極と零を用いて因子(divisor)を導入し,
古典的な意味でのリーマン・ロッホの定理(theorem of Riemann-Roch)を証明した。
 
併しリーマンの研究の完全な拡張は,複素多様体
特にケラー(Ka"hler)多様体上での有利型微分式に対する
リーマン・ロッホの定理の完成である。
 
何となれば代数的多様体が複素射影空間内に埋没されたコムパクトな
複素多様体と一致する事が,一九四九年チョウ(W.L.Chow)によって証明され,
後者はケラー多様体の最も重要なる例であるからである。
 
小平君の研究も一九五一年以後は専らこの方面に集中されている。
 

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