現代数学で「大域解析学・大域幾何学」と「局所解析学」「基礎解析学」の違いは何かまとめ。多様体上で不連続群を使って微分方程式を調べる

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現代数学の「大域解析」「大域幾何」とは何なのか,わかりやすくまとめてみた。


大域解析学とは,簡単に言うと:

  • 多様体上の解析学を,大域的に研究する理論。
  • コンパクトな(閉じた)多様体上で,ラプラス方程式などの楕円型方程式を調べること。

大域解析学を使うと,何ができるか:

  • 局所的な性質と,大域的な性質とを結びつけることができる。
  • 例えるなら,「木を見て森を知る」ことができる。


大域解析学において,前提となる知識:

  • 微分幾何学
    • リーマン幾何
  • リー群論
    • 不連続群
  • 等質空間論,局所均質空間


大域解析学のトピックの例:

  • (幾何学的)変分問題
  • 境界値問題
  • 力学系
  • 共形場の理論,共形構造
  • 作用素環
  • シンプレクティック幾何学
  • 不変微分作用素
  • 自己共役作用素のスペクトル分解
  • 固有関数展開の理論
  • Hodge-小平分解
  • M.Atiyah-M.Singer の指数定理
  • 調和写像の存在定理
  • Calabi 予想の解決
  • ゲージ理論のトポロジー
  • 結び目


以下で,それぞれ詳しく解説。

簡単に言うと,何をする分野なのか?

扱うトピックがリストアップされている。

大域解析学は,基礎解析学に続く概念である。

科学研究費助成事業-科研費-「系・分野・分科・細目表」の改正後の申請・採択状況について
日本数学会・教育研究資金問題検討委員会
http://mathsoc.jp/publication/tushin/1802/kaiho182-kakenhi.pdf

  • 大域解析学
    • (A) 関数方程式の大域理論
    • (B) 変分法
    • (C) 非線形現象
    • (D) 多様体上の解析
    • (E) 力学系
    • (F) 作用素環
    • (G) 可積分系


○理工系
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/010703/002/03.htm

  • 基礎解析学: 複素解析、実解析、関数方程式、関数解析、確率解析、代数解析
  • 大域解析学: 関数方程式の大域理論、変分法、非線形現象、多様体上の解析、力学系、作用素環、可積分系


多様体を中心に微分方程式を考える,というテーマとして説明されている:

大域解析学と代数解析学の交錯:京大数理研 望月拓郎先生
http://www.ostec.or.jp/pln/pri/kagaku/mochizuki.pdf

  • 多様体とは, 現代数学における主要な研究対象の一つであり、球面やトーラスといった図形の一般化です。
    • 球面やトーラスのように「閉じている」ものをコンパクト多様体といい、境界を含まない円板のような「閉じていない」ものを 非コンパクト多様体といいます。
    • そして、乱暴な言い方になりますが、コンパクト多様体上で, 楕円型方程式(ラプラス方程式の一般化)を調べるのが「大域解析学」です。  
  • 大域解析学は 20 世紀以降の数学の世界的な主潮流のひとつになっていて、Hodge-小平分解や、M.Atiyah-M.Singer の指数定理、調和写像の存在定理、Calabi 予想の解決、ゲージ理論のトポロジーなど、既に古典となっている深い研究が多数あります。
  • そして、大域解析学の強いところは、局所的な性質と大域的な性質を結びつけるところです。
    • つまり、各部分ごとに述べられる条件と、全体があって初めて述べられる大域的な条件を結びつけるのが, 大域解析学の研究のテーマの一つといえます。
  • 一方、線形偏微分方程式から「形」を取り去った「実体」である D- 加群を研究するのが代数解析学です。


名城大学理工学部数学科 > 大学院数学専攻
http://math.meijo-u.ac.jp/ginfo/index.html

  • 大域解析学とは:
    • 多様体上の解析学を大域的に研究する理論の研究
    • 微分幾何学, リー群論, 等質空間論および解析学等の幅広い基礎理論からはじめる。
    • 不変微分作用素, 境界値問題, 自己共役作用素のスペクトル分解,固有関数展開の理論などのトピックがある。


中心となる構造は「不連続群」である:

幾何学 | 東京大学大学院数理科学研究科理学部数学科・理学部数学科
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/summary/geometry.html

  • 構造には、(擬)リーマン構造、ケーラー計量等の、局所的なねじれの構造をもつ空間から、シンプレクティック構造、接触構造、葉層構造など大域的な位相的構造と近い性格をもつものまで様々な幅がある。
  • また、局所均質性に着目すると、リー群や等質空間との結びつきが深くなり、不連続群が局所と大域を結ぶ主役として、近年、リーマン幾何を超えた枠組みで盛んに研究されている。  
  • 幾何構造の入れ方が一意的であるときを剛性といい、その逆の場合は、自由度そのものも研究対象になる(変形理論)。
  • 後者の典型例としては、曲面の変形のあらゆる可能性を一挙にみると、曲面の写像類群、その分類空間が現れるが、これがリーマン面のモジュライ空間として複素幾何的扱いを許す対象である。


大学での「大域解析学」の講義内容の例:

大域解析学第一
http://www.math.titech.ac.jp/~jimu/Syllabus/H15(2003)/Graduate/Global_Analysis_I.html

  • 【講義の目的】
    • 2次元 共形場理論の数学的基礎を解説する。
    • 特に自由場の理論と、それを応用した相関関数の積分表示の理論 を中心に述べる。
  • 【講義計画】  
    • 予定の項目は、自由場、OPEの計算、アフィンリー環、KZ方程式、 積分表示、など。


大域解析学第二
http://www.math.titech.ac.jp/~jimu/Syllabus/H17(2005)/Graduate/Global_Analysis_II.html

  • 【講義の目的】
    • 「共形構造を持った二次元の微分可能多様体」であるリーマン面の幾何学的特徴を, 非線形偏微分方程式の道具を用いて解明する。
    • 多様体上にリーマン計量が与えられたとき, それを変形するには, その計量の持つ共形構造を保つものと, それを壊すもの の二つに大きく分けられる。
    • 共形構造を保つものの理論は, ポアンカレの一意化定理によって二次元の場合うまく説明され、保たないものに関してはタイヒミュラー空間というパラメター空間を導入する必要が生 ずる。
    • この計量の変形に関して現れる線形、及び非線形の偏微分方程式に関する解析を中心に講義を構成したい。
  • 【講義計画】
    • 1)二次元多様体のリーマン計量の局所的変形理論
    • 2)二次元多様体のリーマン計量の大域的変形理論
    • 3)その応用

大域解析・大域幾何について,わかりやすい解説資料

局所から大域へ ― リーマン幾何を超えた世界で ―
http://www.ipmu.jp/sites/default/files/webfm/pdfs/news25/J03_FEATURE.pdf

  • 小林俊行先生。以下は要点を抜粋。

「木を見て森を見ず」とは言うものの,名探偵のような視点で木(局所)を観察すれば、森の形(大域)の“何か”は読み取れるかもしれない。
 
古典的な数学の時代では、小さなスケールで起こることや局所的な座標を用いて説明できることが主に研究されていた。
現代の数学では、大きなスケールで起こることに関心の対象が拡がり、それに向けてさまざまな数学概念や手法が開発されてきている。
しかし、一般には大域的な現象を理解するのは大変難しい
 
幾何学において局所的な構造を指定したとき、

  • 「大域的な形としてはどの程度の自由度があり、どのような制約を受けるか?」

という問は,

  • 「局所→大域的な形」

というモチーフの典型的なもの。
 
局所性として“均質”という性質に着目すると、リー群論や整数論との結びつきが強くなり、不連続群とよばれる離散的な代数構造が, 大域的な形を統制する主役になる。
 
本稿では,

  • リーマン幾何の枠組を超えた局所均質空間の大域幾何と、
  • 最近手がけ始めたスペクトルの研究(大域解析)

の雰囲気を伝える。
 
一つの大域構造の中に, 同種の局所幾何構造が唯一つしか入らないとき剛性定理が成り立つという。
逆に、同種の幾何構造の入れ方に自由度があるときは、その自由度そのものを研究対象にすることができる(変形理論)。
 
リーマン幾何の範疇では、剛性定理が成り立つ状況が多いが、その例外として、閉じた曲面上には曲率が-1のリーマン構造(双曲構造)で相異なるものが連続無限あることが知られている。
これを記述するパラメータ空間はタイヒミュラー空間と呼ばれ、関数論・双曲幾何から弦理論などさまざまな分野に現れる重要な概念。
 
リーマン幾何学の枠組を超えた世界では、局所均質空間の“住人”たる大域解析は, 謎に包まれた未踏の地。

幾何学分野紹介 - 幾何グループ
http://www.math.tsukuba.ac.jp/~tange/open2014kika.pdf

  • 筑波大学 大学院 数理物質系 数学域
  • 以下は抜粋。

微分幾何では,リーマン計量・測地線・曲率が本質的。
 
曲がり方がわかれば、対象全体がどんな形か分かる
→大域解析学が発展
 
ガウス・ボンネの定理:
微分幾何的データが,位相幾何的分野を復元する。
 
 
位相幾何学の分野で研究をするには,
「集合と位相の基本事項」
を学んでいることが望ましい.
 
微分幾何の分野で研究をするためには,
「曲線と曲面の幾何」および「多様体の基本事項」
を学んでいることが望ましい


東京大学・グローバルCOEプログラム,数学新展開の研究教育拠点
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/gcoe/documents/pamphlet.pdf

  • 14ページ目,小林俊之先生の研究内容
  • 以下は抜粋引用。

リーマン幾何学の枠組みを超えた不連続群
  
【局所から大域へ】  

  • 局所構造は大域構造にどのように影響するか? 
    • この主題は、計量が正定値であるリーマン幾何学においては、20世紀以来の幾何学における大きな潮流となり、著しい発展をとげてきた。  

 

  • より一般の幾何構造に対してはどうか? 
    • たとえば、相対性理論における時空(ローレンツ空間)のように不定値の計量をもつ空間では、等長変換からなる離散群の作用は真性不連続とは限らない
    • このような現象も、大域的な構造に重要な役割を果たすはず。

 

  • 実は、不定値計量の場合を含む一般の幾何構造に対する局所から大域への研究は, 20世紀の幾何学の潮流に乗り遅れた感があった。

 
【不連続群の理論】  
 

  • 局所構造が均質の場合には、
    • 局所的な幾何を統制するのが, 等質空間であり、
    • 大域的な構造を統制するのが, 不連続群である。

大域解析・大域幾何について,専門的な解説資料

微分幾何と大域解析学関連の報告 (小野薫先生)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku1947/51/1/51_1_81/_pdf

  • 1998年10月の会議報告。以下は抜粋。

Riemann-Rochの定理とその拡張とAtiyah-Singerの指数定理とその拡張とを並べることから始まった講演は

  • 大域的対象と局所的対象,及びそれらをつなぐもの

をKeywordに進められた。

「大きな群の作用はGromovの意味でのrigid geometric structureを保つであろう」
という間を意識しつつ,
剛性や"大きな群"は, 低次元多様体に作用できないこと等を解説した。

大域解析・大域幾何を学ぶための,おすすめの書籍

曲面の微分幾何学―局所理論から大域理論へ

  • 曲面の曲率という局所的な幾何学的対象に, ガウス曲率や平均曲率などが一定という条件が付くと、曲面の大域的な性質がどこまで決定されるかと言う事をメインテーマとしている。


株式会社サイエンス社 株式会社新世社 株式会社数理工学社
http://www.saiensu.co.jp/?page=book_details&ISBN=4910054690361&YEAR=1996

  • ■特集 ・「大域解析学」   ~局所と大域の相関~
  • 吉田朋好 ・「ゲージ理論と幾何学」   ~チャーン・サイモンズ場~
  • 深谷賢治 ・「位相不変量の積分表示と経路積分」
  • 古田幹雄 ・「トポロジー,位相的場の理論そして表現論」
  • 太田啓史 ・「シンプレクティック幾何」
  • 小野 薫 ・「保存力学系」   ~symplectic capacityについてのHoferの仕事を中心に~
  • 小澤 哲也 ・「調和写像と液晶」
  • 立川 篤 ・「Nevanlinna理論と数論」
  • 小林亮一 ・「アラケロフ幾何」 織田孝幸

大域解析学・大域幾何学の関連分野

「大域トポロジー」もある。

シンプレクティック幾何学 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E5%B9%BE%E4%BD%95%E5%AD%A6

  • シンプレクティック幾何学は解析力学を起源とするが、現在では大域解析学の一分野でもあり、可積分系・非可換幾何学・代数幾何学などとも深い繋がりを持つ。
    • シンプレクティック形式を用いれば, 変分原理を通ることなく、運動方程式を書き下すことが出来る。
  • 運動方程式を求積するには第一積分(保存量)が必要である。
    • (ハミルトニアンとは独立な)第一積分の数だけ, 方程式の自由度を落とすことができるからである。第一積分を使って、方程式の自由度を削減する方法を, 一般に簡約化という。
    • 第一積分を見つけることは系における対称性を見つけることに等しい。系が対称性をもてば、その対称性に対応する保存量を見付けられるからである。
      • 例えば、並進対称性があれば運動量が保存し、回転対称性をもてば角運動量が保存する。
      • このように、系の対称性と第一積分の存在との関係を一般的な状況下で研究したのは、ネーターが最初であるとされる。
  • シンプレクティック幾何の歴史は物理とともに始まり進展していった。そしてシンプレクティック幾何は大域的幾何としての発展を期待されていた。
    • シンプレクティック幾何が扱うべきは大域的な対象である, と長く言われてきた。
    • しかし、物理と密着な関わりを持ちすぎたが故に、シンプレクティック幾何学は20世紀前半から始まる大域的解析学とは一線を画している面がある。
  • しかし、特にグロモフ以降のシンプレクティック幾何学は、大域解析学の大きな柱へと成長を遂げることになる。
    • グロモフは論文のなかで概正則曲線の概念を定義し、その論文がエポックメイキングとなり, それ以降シンプレクティック幾何学は大域的トポロジーの一分野(シンプレクティックトポロジー)に躍り出ることとなる。


研究テーマの例:

教員 研究内容紹介
http://www.sci.waseda.ac.jp/research/CONTENTS/J/6d58dd3b.html

  • 研究テーマ: ディラック作用素に関連した幾何学,大域解析学
  • 研究概要: ディラック作用素という楕円型一階微分作用素は,数学,物理学の様々な分野に現れる.
    • この一階微分作用素をいろいろな側面(微分幾何学,大域解析学,表現論など)から眺め,その本質を理解することが研究目的である.
    • 具体的に述べれば,スピン幾何学,ツイスター理論,指数定理,シンプレクティック幾何学,対称空間上での調和解析などが挙げられる.
  • また,ディラック作用素に限らず,リーマン多様体上の幾何構造から定まる微分作用素らの幾何学的,解析学的性質を理解することも目的とする.


pamphlet15.pdf
http://www.math.kansai-u.ac.jp/pamphlet15.pdf

  • 大域解析学研究室 竹腰見昭 教授
  • 大域解析学研究室では,微分不等式 f"(x)≧k(x)f(x) を満たす f(x) の無限遠での挙動を研究しています
    • この問題は, 微分幾何学や複素解析のいくつかの大域的な問題と関連があり、現在もなお多くの数学者によって研究されています。

局所解析とは何か?

大域解析とペアになるのが,局所解析という分野。

局所解析の中の1分野が,超局所解析。

雑記 : 超局所解析
http://blog.livedoor.jp/yadahoiso/archives/1434891.html

  • 大雑把に言えば,ある点のまわりだけ見る っていうのが局所解析
    • たとえば|x|は原点で微分不可能だけど,原点以外では微分可能(原点以外では局所的に滑らか)
    • さらに方向まで見るのが超局所解析


超局所解析から見た完全WKB解析入門 (経路積分と超局所解析の入門) - 1723-09.pdf
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1723-09.pdf

  • 超局所解析は,微分方程式の解の特異性の余接空間上での解析を一つの柱とする.
  • 一方,完全 WKB 解析では, 微分方程式の解の大域的性質を形式解とその Borel 和の活用により解析する.
  • ともに複素解析的カテゴリーにおける微分方程式を主たる研究対象としているが,目的および手法は一見異なる.


解析学分野 - 筑波大学 理工学群数学類/大学院数学専攻
http://nc.math.tsukuba.ac.jp/4fields/analysis/

  • 解析学とは、一言で言えば、微積分という操作に対する関数の性質を研究する数学の一大領域です。


超局所解析 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E5%B1%80%E6%89%80%E8%A7%A3%E6%9E%90

  • 数学の解析学の分野における超局所解析(ちょうきょくしょかいせき、英: microlocal analysis)とは、変数係数の線型および非線型偏微分方程式の研究に関するフーリエ変換に基づく、1950年代以後に発展した技術を伴う解析のことを言う。
  • 超函数や、擬微分作用素、波面集合、フーリエ積分作用素、振動積分作用素、パラ微分作用素の研究などが含まれる。
  • 「超局所」(microlocal)という語は、空間内の位置についての局所化のみならず、ある与えられた点の余接空間方向についての局所化を意味する。このことは、次元が 1 よりも大きい多様体に対して、重要な意味を持つ。

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「微分ガロア理論」とは何か,入門用にわかりやすく解説。「微分方程式が解ける条件」を群論で表現する

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微分方程式に対するガロア理論,すなわち

「微分ガロア理論」について知るためのわかりやすい解説。


歴史的な背景や,数学的なツール,応用例など。

微分ガロア理論の入門書のうち,わりと読みやすいもの。

代数的ガロア理論と,微分ガロア理論の違い

「微分ガロア理論」とは,微分方程式に対するガロア理論のこと。

  • 代数方程式に対するガロア理論は,「どのような代数方程式は解けるのか」を明らかにする。
  • 微分ガロア理論の研究を進めると,「どのような微分方程式は解けるか」がわかる。

代数方程式の代わりに,微分方程式を考察したものが微分ガロア理論,というわけだ。


代数的ガロア理論では「体の拡大」がテーマだった。

いっぽう微分ガロア理論では「微分体の拡大」を研究する。

(微分体とは,通常の加減乗除に加えて微分操作を持つ体。)


両者は非常に似通っている。


代数的ガロア理論は,「ある対象が解けるとはどういうことか?」をうまく定義している。

この理論をひな形・テンプレートにして,

ほかの色んな対象に考察を広げることができる。

現代数学における,ガロア理論の重要性がよくわかるだろう。


ふつうのガロア理論を,微分方程式に応用したもの:

線形微分方程式のガロア理論なるものがある | サラリーマンのすらすらIT日記
http://sookibizviz.blog81.fc2.com/blog-entry-1280.html

  • 線形微分方程式のガロア理論なるものがある
    • 普通のガロア理論を, 線形微分方程式の可解性に応用できるようです。これは面白い。

群を使って,微分方程式の解きやすさを測ることができる。(微分ガロア群)

微分ガロア理論を数学的にもう少し詳しく述べると,

「微分方程式の解の超越性を, 微分ガロア群の大きさで測る理論」

と言える。


ある微分方程式が解きやすいかどうか,それは,

「その微分方程式が持つ群(=対称性)」しだいで測られる,というわけ。


ただし,この群を具体的に求めて計算するのはとても難しい。

理論の面では非常に美しいのだが,

実用的な計算の面では,まだまだブラッシュアップが期待される・・・

といったところ。


微分方程式を調べるために,「群と対称性」が役立つ:

0999-12.pdf
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/0999-12.pdf

  • 19 世紀初頭、 E.Galois は方程式の根がベキ根によって構成される仕組を,根のあいだのある置換群 ( すなわち Galois 群 ) の構造によって分析する一般的な原理を確立しました . ( 数学辞典「ガロア理論」 よ り .)
  • 同様に、 なんらかの群を用いて微分方程式の解の性質を調べようという試みがいくつかあります .


思想としてのガロア理論 - hiroyukikojimaの日記
http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20110404/1301921889

  • 竹縄知之さんの「リー群と可積分性」。
    • これは、「微分方程式のガロア理論」と呼ばれる理論の歴史を総覧してくれる記事だ。
  • ガロアが解いたのは「n次方程式が、四則とべき乗根で解ける条件」だった
    • これを「微分方程式が、ふつうの積分とか、指数関数とかで解ける条件」に応用したものが、「微分方程式のガロア理論」なのである。
    • 竹縄さんは、これについてリッカチ方程式とかパンルヴェ方程式とかを主役に据えて解説している。
    • 微分方程式が解けることにも、「対称性とそれを表現する群」が本質的に関わっている、ということが理解できた。
  • いったん忘れさられそうになったこの分野の研究が、物理におけるソリトンとかイジング模型とかの研究で再び脚光を浴びる
    • 最後には、梅村浩やマルグランジュによって確立された最新の理論「微分ガロア理論」のおおまかな説明がついている。


微分ガロア群について:

原岡 喜重。微分ガロア理論
http://www.sci.kumamoto-u.ac.jp/~haraoka/index-j.html

  • ガロア理論とは
    • n次方程式の解がどれくらい複雑な数かを,解の間に成り立つ関係式を不変にする置換からなる群(ガロア群という)の大きさで測るという理論がガロア理論です.
    • ガロア理論は現代数学の一つの指導原理となり,多くの理論の雛形となりました.
  • ガロア理論への直接の類似として,微分方程式についても同様の理論が考えられます.
    • 線形常微分方程式に対するガロア理論は,ピカール・ヴェッシオ理論と呼ばれる。
    • 微分方程式の解の超越性を, 微分ガロア群の大きさで測る理論となっています.
  • しかし実際に微分ガロア群を求めるのは, 非常に難しい問題です.
    • 微分ガロア群を求める方法として,モノドロミー行列やストークス行列たちの閉包を取るやり方があります。
    • また,微分方程式を素数で法を取って有限体の上で考えるやり方が考えられています.
  • 微分ガロア理論には,「代数多様体の周期を与える微分方程式の,素数pによるp-曲率を用いた特徴付け」など,興味深い未解決問題があります.


ガロアの理論 - Commutative Weblog 3
http://commutative.world.coocan.jp/blog3/2011/10/post-279.html

  • 代数方程式のガロア理論を、線形常微分方程式に適用した理論がピカールなどによって構築された。
  • 線形常微分方程式のガロア理論では、微分作用素から微分環、微分体などが定義され、そこに微分ガロア群というものを考えることができる。


「微分体」および微分環について:

微分体の理論 / 岡本 和夫 桂 利行 楠岡 成雄 坪井 俊 編集委員 西岡 久美子 著 | 共立出版
http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320016996

  • 代数的微分方程式の解を研究するために, 加減乗除の他に微分演算をもつ微分体を用いる。
  • 本書では,数学科3年までに学ぶ標準的な群,環,体,ガロワ理論の知識を前提として,微分体の理論を基礎から厳密に解説する。これは他書にはみられないものである。
    • 前半は, 微分体の万有拡大の存在証明が大きな目標であり,またPicard-Vessiot拡大や強正規拡大のガロワ理論を解説する。
    • 後半では, 微分方程式の解が初等的な演算で得られるかという問題,エアリー関数やベッセル関数の代数的独立性,パンルヴェ方程式の既約性などを論じる。


微分環 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%AE%E5%88%86%E7%92%B0#.E5.BE.AE.E5.88.86.E4.BD.93

  • 微分体とは、微分を有する体 K である。
  • 微分体の理論 DF は、通常の体の公理に、微分に関する 2 つの公理を追加したものである。

理論の創設者は,リー群で有名なLieさん

微分ガロア理論を作りだしたのは,リー群で有名なLieである。


Lieは,もともと「微分方程式の可解性」を調べたかった。

解ける微分方程式と,解けない微分方程式をうまく分類できれば,

微分方程式論は飛躍的に進歩するだろう・・・。


代数方程式の場合は,解けないサインは

「次数が5以上」というシンプルな条件だった。

微分方程式の場合も,解ける条件・解けない条件を

シンプルに,対称性を使って表現できるのではないか?


彼はそのために,様々な代数的なアイデアを作りだした。


Lieのアイデアをもとに,Lie群論の発展を手掛けたのが,

カルタンやキリングといった数学者たちだ。

おかげでLie群,Lie環といったツールが整った。

線形の場合は,ピカール・ベッシオ理論が確立している

Lieがもともとやりたかった事を引き継いだ人がいる。

微分方程式はどんな場合に解けるのか?を

Lieの後で研究した後継者だ。


「線形の常微分方程式」に限られるものの,

ピカールやベッシオといった数学者が,

Lieの志を継いで,微分ガロア理論を進歩させた。

これを「Picard-Vessiot 理論」という。

19世紀末~20世紀初頭にかけて研究された。


のちに,コルチンという人が

「微分体」という概念を使ってこの理論を整理し,

微分ガロア理論はめでたく「微分体の理論」として定式化された。

ここまでの成果を「有限次元の微分ガロア理論」という。


リー,ピカール・ベッシオ,コルチンという流れについて:

edu-proj-001.dvi - edu-proj-001.pdf
https://www.math.nagoya-u.ac.jp/ja/education/project/download/edu-proj-001.pdf

  • 19世紀にS.Lieは,GaloisとAbelの理論を微分方程式に打ち立てられたら。。。と考えた.
    • つまり,微分方程式のGalois理論の夢を抱いた.
    • この理論は本質的に無限次元である.彼はLie群論,Lie環論を有限次元の場合から創り始めなければならなかった.
  • 次のように考えれば,微分方程式のGalois理論の重要性は容易に推察できるであろう.
    • Galois理論を学ぶときに知るように,代数方程式のGalois理論は一般の5次方程式を加減乗除と根号で解くのが不可能であることを証明し,歴史的な問題に終止符をうった.
  • しかし,Galois理論がその力を発揮したのは,その後の整数論においてである.
    • 微分方程式のGalois理論も,微分方程式論においてこのような働きをするものと期待される.
  • 有限次元の場合は, 微分Galois理論が,Picard,Vessiot,Kolchinによって創られた.


fuji200505.pdf
http://amano-katsutoshi.com/dvi-pdf/fuji200505.pdf

  • 線形微分方程式に関する代数的理論に, Picard-Vessiot 理論というものがあります .
    • これは代数方程式の Galois 理論の, 線形常微分方程式における類似である
    • 19 世紀 末から 20 世紀初頭にかけて Picard とその弟子 Vessiot によって研究された。
    • その後, Kolchin により, 微分体の概念や線形代数群の理論を発展させつつ整理・拡張されて 現在の形に至っている .


初等超越関数について - 0302-0000-0537.pdf
http://mcarchive.sfc.keio.ac.jp/ekamo/tmpDocRoot/books/sfcac/0302-0000-0537/0302-0000-0537.pdf?20110413164044

  • 線形微分方程式の解法は比較的初期からよく考察されていた。
    • これに関しては、 Liouville の楕円積分に関する研究があり、 Riemann による群論的アプローチがある。
  • Abel を信奉する Lie は,群論を微分方程式の解法に役立てようと努力した。
    • ひとつの成果は Picard- Vessiot 理論であるが、この理論は Ritt の弟子である E.R. Kolchin によって代数化された
    • 線形常微分方程式に関しては,群論 (Kolchin 流とは限らないが)で研究するのが本流となった。
    • この観点から、古典的な Liouville の理論が見直され、再考察された。すなわち、 Abel や Liouville の群論的考察への回帰である

非線形の場合は難しく,発展途上にある

ところが,線形の場合は,まあ何とか考察できたものの,

非線形の場合は難しかった。


ドラッホとかベッシオが頑張った割には,

「非線形な微分方程式に対する微分ガロア理論」は

労多くしてなかなか進歩せず,困難が見られたのだった。


偏微分方程式ともなると,まだ全然理論が整備されていない。

微分ガロア理論にはいまだに,興味深い未解決問題がたくさんある。


非線形の難しさ:

梅村浩氏(名大)集中講義 - 微分ガロア理論とは
http://www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~ohyama/frame/umemura/

    • 代数方程式のガロア理論にあたる変換理論を、微分方程式に対しても構成しようという試みは Lie に始まる
    • Lie の理論は, Killing や E. Cartan らによってLie 群や Lie 環という形で大きな実を結んだ。
  • Lie の本来の目標であった「微分ガロア理論」は...
    • Picard や Vessiot によって線型常微分方程式に対しては形になった
    • が、非線型方程式に対しては、Drach の理解不可能な大論文のあと、Vessiot の努力にもかかわらず忘れ去られた形となった。

物理学へのおもしろい応用:三体問題が解けない理由

微分ガロア理論の活用例として,

物理への興味深い応用がある。


運動方程式が解けない場合」を判定できるのだ。

なぜなら,運動方程式とは微分方程式だから。


この点で,もっとも有名なのは3体問題だ。

運動方程式は立てられるのに,それを解くことができない。

いったいどうしてなのか・・・という疑問に,

微分ガロア理論は答えを出している。


ある運動方程式が解けるかどうか,

解析的に軌道が求められるかどうか

というのは,結局は「微分方程式が解けるか?」ということだ。


ということはつまり,その運動方程式から微分ガロア群を作って,

この群の大きさを調べれば,解けるかどうか判定できる。


これを,ハミルトン系の可解性の判別問題という。

物理学のジャンルでいうと,「可積分系」だ。

求積法で積分して解が求められるような系を対象とした数理物理だ。

  • 「5次方程式の解の公式が,いくら頑張っても見つけられないのはどうしてなのか?」

という疑問と同じように,

  • 「3体問題の解が,解析的に求められないのはどうしてなのか?」

という長年の悩みにも,ガロア理論が回答しているのである。


解いたらいくつになるのか,という疑問ではない。

  • 絶対に解けない,と断言できるのか?
  • 解けない理由は何か?
  • 解けるタイプの判定法は何か?

という疑問だ。


この手の質問は,ガロア理論の最も得意とするところだ。

ガロア恐るべし。



運動方程式が解けるかどうか,微分ガロア理論で解明できる:

セミナー | 九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所
http://www.imi.kyushu-u.ac.jp/seminars/view/625

  • 微分ガロア理論は,代数方程式に対するガロア理論の,微分方程式版とも言うもの
    • 19 世紀終わり頃のピカールやベシオによる線形微分方程式に対する仕事に始まり,微分方程式が求積法で解ける(可積分) かどうかということが論じられる.
  • MoralesとRamisは微分ガロア理論を用いて,一般的なハミルトン系に対して, 複素解析的な意味で可積分であるための必要条件,すなわち非可積分性の十分条件を求めている.


saito.pdf
http://www.commalg.jp/wakate2010/proceedings/saito.pdf

  • Theorem 3 (Morales-Ruiz, Ramis)
    • 複素 2 n 次元 Symplectic 多様体 V 上の Hamilton 系に対し, 近傍で独立で, 互いに可換な n 個の有理型の第 1 積分を持つと仮定する .
    • このとき ( 直交 ) 変分方程式のガロア群はモノドロミー群の Zariski 閉包であり , 特にその単位成分は可換である .
  • Theorem3 によりガロア群を用いて Hamilton 系の可積分性を判定することができる .

数学の基本的な問題に対する応用:積分が計算できない理由

微分ガロア理論には,もっと根本的な応用もある。

それは,「積分を計算できない理由」がわかる,というもの。


積分を実行できないケースをご存じだろう。

楕円積分とか,対数積分とか,計算不能な積分はいっぱいある。


これらの積分計算が,

結局は「微分方程式の可解性」に帰着されることにお気づきだろうか?


つまり,積分したいけどできない関数 f(x) があって,

これを積分せよという問題は

  • y' = f(x) なる微分方程式を解け

という問題に等しい。

解こうとすると,右辺を積分することになるからだ。


だから,積分できるかどうか?という観点は

微分方程式が解けるかどうか,

つまり「微分ガロア群が可解かどうか」という群の問題になるのだ。


そして,その群が可解でなければ,微分方程式は解けない。

積分の計算も実行できない…という話になる。


微分の計算は必ずできるのに,

積分の計算は難しい。

高校,大学と,むずかしい積分の計算に悩まされて

解析学の単位を取った記憶を持つ方は多いだろう。


その原因が,こんな高度な理論によって説明されるとは

なかなかの驚きではなかろうか。


いくら頭をひねったところで,楕円積分や対数積分は計算できない。

それは,何百年か先に,もっと数学が進歩したら解決できる…

というものではない。


計算できないことが証明されているのである。


積分という操作が,いかに奥の深いものかがわかって

とても面白い。

これも,微分ガロア理論がもたらす数々の益の一つだ。


楕円積分を例として,「積分できない」とはどういうことか:

微分ガロア理論 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%AE%E5%88%86%E3%82%AC%E3%83%AD%E3%82%A2%E7%90%86%E8%AB%96

  • 「積分できない」ケースを明確化する。
    • いわゆる初等関数の定義にいくら沢山の関数を追加しても、その不定積分が初等関数にならない関数が存在する。
    • 微分ガロア理論(びぶんがろありろん、英:differential Galois theory) の理論を用いれば、どの初等関数の不定積分が初等関数で表せないか、決定することができる
  • 微分ガロア理論は、ガロア理論のモデルを基礎にした理論である。
    • 代数的ガロア理論が体の拡大を研究するのに対し、微分ガロア理論は微分体(びぶんたい、英:differential field)、つまり微分または微分子 D を持つ体の拡大を研究する。
  • 微分ガロア理論の殆どは、代数的ガロア理論と類似している。
    • 両者の構成における大きな違いは、微分ガロア理論のガロア群は代数群であり、代数的ガロア理論ではクルル位相を備えた副有限群である点である。


微分体入門 : 付値理論による線形常微分方程式の研究 (可積分系数理の多様性) - 1765-05.pdf
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1765-05.pdf

  • Liouville は有理関数から出発して、不定積分、指数積分をとる操作と代数的操作を有限回ほどこすことによって得られる関数を,初等関数論の類似として議論した。
    • 楕円積分がそのパラメータに関してこの意味の関数ではないことを Liouville は証明した。

参考資料

微分ガロア理論の入門書は,いくつか出版されている。


代数的ガロア理論に比べると,まだ数が少ない。

代数的ガロア理論をもとにして作られた応用的な理論だし,

現在進行中で研究が進められているからだろう。


「リッカチのひみつ」という良書:

学校では教えてくれない数学:微分方程式のガロア理論
http://blog.livedoor.jp/calc/archives/51520921.html

  • リッカチ型微分方程式と対称性というキーワードを中心に、幾何学的観点を主なアプローチとして、微分方程式のガロア理論に迫っていく本
    • 数学セミナーの連載記事を読んでいたので、割とすんなり読めました。
    • 読んで改めて思ったのは、偏微分方程式のガロア理論って, まだまだ具体例を含め理論的整備が出来ていないのだなーということ


リッカチのひ・み・つ 解ける微分方程式の理由を探る | 井ノ口 順一 | 本 | Amazon.co.jp
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%81%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%83%BB%E3%81%BF%E3%83%BB%E3%81%A4-%E8%A7%A3%E3%81%91%E3%82%8B%E5%BE%AE%E5%88%86%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F%E3%81%AE%E7%90%86%E7%94%B1%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B-%E4%BA%95%E3%83%8E%E5%8F%A3-%E9%A0%86%E4%B8%80/dp/4535786313

  • あとがきから引用:
    • 上野氏との勉強を通じて、リーが作りたかった「リー理論」は「微分方程式に対するガロア理論」なのだと知りました。



Web上で入手可能な資料を探すと,

下記のスライドは,雰囲気をつかむのにはいいかもしれない。

最終講義 - umemura_lect.pdf
http://ocw.nagoya-u.jp/files/100/umemura_lect.pdf

  • 微分 Galois 理論は人間の 情熱 を駆り立てる

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集合論で,超越数全体や無理数全体の集合の基数は「非可算無限」つまりアレフであり、実数全体と同じ濃度を持つ

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大学で学ぶ「集合位相論」(実数論)で,無理数や超越数の個数がどれぐらい多いかについて。


自然数や実数は無限に存在するが,その「多さ」の質は異なる。

自然数は「番号を付けて順番に並べられる」ていどの多さ(=可算)だが,

実数全体はそうではない。


無理数や超越数も同じく,「番号を付けられない」ほど多い。

これらの集合は,可算でない。非可算無限である。

無理数や超越数の集合が,可算ではないことの証明

どうしてなのかというとその理由は,「基数の足し算」をすればわかる。

「可算無限と可算無限を足し合わせても,高々,可算である。」

という定理があり,この結果を使うのだ。


実数を分割する方法はいくつかある。

まず,無理数に注目してみよう。


実数は下記のように分割できる。

  • 有理数(可算個)
  • 無理数

ここで,この2つの集合を足した結果は,実数全体である。

つまり非可算である。


そして,もしも無理数全体が可算だとすると,

有理数と無理数の和集合も可算になってしまい矛盾が生じる。

だから結論として,「無理数全体の基数は非可算」といえるのだ。


上記の議論と同じく。実数を別の仕方で分割してみよう。

  • 「代数的数」の全体(有理係数の代数方程式の根として生成できる数)=可算個
  • 超越数(有理係数の代数方程式の根として生成できない数)

このように実数を分割した場合,

前者は可算個だから,やはり後者は非可算個だとわかる。


上述の証明のアイデアとしては,

  • 有理数や代数的数が可算個であること
  • 補集合の取り方
  • 基数の足し算
  • 背理法

などの数学的なテクニックを使っている。

なかなかおもしろい結果ではないだろうか?

集合の大きさのまとめ

可算個(アレフ・ゼロ):

  • 自然数
  • 有理数(自然数を含む)
  • 代数的数(有理数に加え,一部の無理数も含まれる)

非可算個(アレフ):

  • カントール集合(3分割して真ん中を削除する,という操作を繰り返してできる図形)
  • 超越数(代数的でない数。πやeなどを含む)
  • 無理数(超越数を含む。また,一部の代数的な数も含む)
  • 実数(上記のすべてを含む)
  • 平面上に存在するすべての点
  • 3次元空間上に存在ずるすべての点,etc


集合の濃度という観点で見ると,

可算か,非可算かで言い尽くせてしまう。


集合の種類は世の中にたくさんあるが,

その特徴量ともいえる「濃度」は,パターンが限られる。

集合を分類するためにすごく役立つのがわかる。

参考資料

無理数も超越数も,その全体集合の基数は非可算:

連続体濃度 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%A3%E7%B6%9A%E4%BD%93%E6%BF%83%E5%BA%A6#.E9.80.A3.E7.B6.9A.E4.BD.93.E6.BF.83.E5.BA.A6.E3.82.92.E3.82.82.E3.81.A4.E9.9B.86.E5.90.88

  • 連続体濃度をもつ集合の具体例。
    • 連続体濃度を持つ集合は、数学の様々な分野で表れる。以下によく知られた例を挙げる。
  • R: 実数全体の成す集合。
  • R における任意の非退化な閉区間あるいは開区間。
    • たとえば単位区間 [0,1] など。
  • 無理数全体の成す集合。
  • 超越数全体の成す集合。


ラッカー「ホワイトライト」と無限と連続体問題
http://kreisel.fam.cx/webmaster/clog/img/www.ice.nuie.nagoya-u.ac.jp/~h003149b/lang/p/white_light.html

  • 「実数の部分無限集合は必ず, 自然数全体または実数全体のどちらかと1対1に対応するのか」?
    • この問題を連続体問題と呼び、これが成り立つという予想を連続体仮説と呼ぶ
  • 例えば、有理数全体の集合とか代数的数全体の集合は自然数と同じ濃度。
    • 無理数全体の集合とか, 超越数全体の集合, あるいはカントール集合なんかは 実数と同じ濃度。


set4.pdf
http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/set/set4.pdf

  • 例題 4.11. 超越数全体は R と同じ「個数」
  • π =3 . 14159 ... , e =2 . 71828 ... は具体的な超越数。


証明の方針は,基数の足し算を使う:

hirata.pdf
http://www.ma.noda.tus.ac.jp/u/ha/SS2006/Data/Hokoku/hirata.pdf

  • 有理数体 Q は可算集合であり,実数全体 R は非可算
    • だから,無理数は必ず非可算無限個存在 する.


無限について ~カントールの対角線論法~|数学美術館
http://ameblo.jp/interesting-math/entry-10679227143.html

  • 有理数が可算無限集合で、実数全体が非可算無限集合
    • ですので、 実は無理数(実数から有理数をひいたもの)が非可算無限集合なのです。
  • 有理数係数の代数方程式の解となる数は可算無限
    • 解とならない数(超越数)は非可算無限

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