3体問題が解けない証明は,可積分系(力学系・一般力学)での第一積分の探索でわかる
「3体問題」は,解けないことが証明されている。
これは「可積分系」に関する力学系の問題。
解析力学や数理物理学の中でも,力学系の入門的なトピックだ。(※力学ではなく力学「系」なので注意)
(1)なぜ解けないのか?
一言で言うと,「第一積分」が足りないので解けない。
運動方程式を積分すると,「積分結果=定数」のように,保存する物理量を見つけられる。
しかし三体問題は,この保存量の数が足りないのである。
このような系は,積分で解を求められない系なので,非可積分系と呼ばれる。
変数の数が足りない,だから積分できない。
これが,三体問題の解けない理由の説明だ。
その事実を証明したのはポアンカレであり,
力学系の専門用語を使って述べると
- 「近可積分系は,一般に摂動パラメータに関して解析的な第一積分をもたない。」
となる。
「変数の数が足りない」件について:
KaoZ.pdf
http://www.math.uchicago.edu/~may/VIG...
- In essence, the Three-Body Problem cannot be solved because, unlike the Two- Body Problem, the 18 variables (6 n ) that we need to completely describe the system, cannot be reduced to a single variable that we can solve.
三体問題について
http://pathfind.motion.ne.jp/santai.htm
- ある問題は、変数(あるいは自由度)の数だけこうした第一積分・保存量が存在しているならば、次々に変数の中身を書き下していける、つまり「解ける」ということになる
三体問題
http://homepage3.nifty.com/Mr-nobody/...
- H.Brunsは三体問題に関し,変数(p,q,t);{座標、 共役な運動量、時間}について,代数的な第1積分はEuler積分以外ないことを証明しました
- 続いてH.Poincareは,ある形のハミルトニアンに対する微小 パラメータμのベキ級数展開について、解析的な第1積分 が一般に存在しないことを証明しました
「積分できない」件について:
近可積分系の諸問題をめぐって – 安定性の視点から -
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyod...
- しばしば , ポアンカレは 3 体問題が求積できないことを明らかにした と言われるが , それは近可積分系が一般に摂動パラメータに関して解析的な第一積分をもたないことを主張する結果であり , それが制限 3 体問題に適用できることから , そのよう に言われているものである。
- ポアンカレは制限 3 体問題の研究を通じて , このほかにも不動点定理やホモクリニック軌道の発見など , 今日の力学系理論やシンプレクテイツク幾何 の研究の基礎を成すアイデアを得た。
カオスと3体問題
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/...
- 19世紀末から20世紀初頭にかけて,ポアンカレは3体問題を積分法で解くことは不可能であることを証明しています.
[Q&A] 3体問題でのカオスとなるきの軌道 【OKWave】
http://okwave.jp/qa/q4467760.html
- この場合の「可積分」というのは力学系で用いられ、保存量と自由度の関係から定義される用語
- 3体問題は、「エネルギー積分」等の保存量が不足し、解析的に解くことができませんから、「非可積分系」
ここで,積分結果,すなわち保存量(=変化しないもの)の有無が問題であることに注意しよう。
ニュートン力学は「変化するもの」を探求するのに対し
解析力学(ハミルトン力学)では,「変化しないもの(保存するもの)」を探求する。
だから保存量の有無を調べるためには,解析力学をバリバリ駆使する必要がある。
ニュートン力学の発想では保存量の概念がないので,どうして三体問題が解けないのか,全く理解できないだろう。
(2)解けないので,かわりにどう対処するか?
三体問題は解析的に厳密には解けない。
なのでかわりに,第一近似や,制限をつけることで限定的に解いたりする。
たとえば,近似的に二体問題として解いてしまう方法がある。
天体の運動(2)
http://www.ne.jp/asahi/tokyo/nkgw/gak...
- 太陽に対して月の質量はきわめて小さいことから、地球の運動に対する月の影響はかなり小さい。そこでこれを無視すると、太陽・地球の関係は2体問題となり、両者はその共通重心のまわりをケプラー運動をしていると考えてよいことになる
- また月の運動を考える場合、月に対して太陽より地球の方がうーんと近距離にあることから、月はほとんど地球の影響を受けて運動していると考えられ、そこで今度は、地球と月との2体問題と考えることが出来る。
- つまり、太陽との共通重心のまわりを地球がケプラー運動し、その地球との共通重心のまわりを月がケプラー運動をしていると近似
- しかしこれはもっとも荒っぽい近似(第1近似)であり、実際の運動とにかなりのずれが出てくる
また,物体の運動に制限を付ければ,特殊なケースに限定された厳密解を求めることもできる。
たとえば
- 物体の運動を「円運動」と仮定したり,
- 物体が3つとも一直線上に存在する,などの特殊な仮定を置いたり
といった具合だ。
多体問題 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9...
- 限定された条件(制限三体問題など)では解が存在する
なんと三体問題の新しい解が13個も見つかっていた!さっそく計算して図示&GIFアニメ化: Fallen Physicist, Rising Engineer
http://sci.tea-nifty.com/blog/2013/03...
- 21世紀になってもこういうのが見つかるのは面白い
科学のおもちゃ箱 @wiki - 3体問題8の字解
http://www14.atwiki.jp/yokkun/pages/5...
- 3体8の字解は,3体問題の一つの解で,等質量の3体が8の字の形をした一つの軌道の上を互いに追いかけっこをする解。それが定常解であることは証明されている
円制限三体問題 とは - コトバンク
http://kotobank.jp/word/%E5%86%86%E5%...
- 第1,第2天体の運動を円運動と仮定すると(円制限三体問題という),ヤコビ積分と呼ばれる積分が成立する。
もしかしてこれすごい?多体問題が解けた? | beroの日記 | スラッシュドット・ジャパン
http://slashdot.jp/journal/524014/%E3...
- 一般相対論の範囲で三体問題の直線解(三つの物体が一直線上に乗っている場合に限定した解)を解いた
(3)三体問題をちゃんと理解するためには
ちゃんと理解したいなら,「解析力学」と「力学系」をマスターしよう。
「解析力学」の講義ノートPDF。Webで入手可能なテキスト(演習問題と解答付き)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20140518/AnalyticalMechan...
- 解析力学を学習するための良質な資料
なお天体力学では,3つの惑星や恒星が互いに力を及ぼしあいながら運動する系が山ほど出てくる。
「太陽と地球と月がある。どんな運動をしますか?」
これはもう,立派な三体問題だ。